はい、消えた年金問題
思い起こすにもう15年も前のことでしたね。
「ようやくバレたか」と思う反面、「予想より早く表面化したな、」と当時(2007年)の私は思いました。
というもの、80年代後半ころにまだ学生だった私がアルバイトで行った先がNTTデータだったからです。 このブログの多くを読まれている方はご存知のとおり、NTTデータとは80年代に旧)社会保険庁の年金の紙台帳(国民年金と厚生年金保険)を、つまり皆さまの年金記録をデータベースに移行する作業を請け負った会社です。
三鷹にあったこのバイト先で私は、「これが日本の中央省庁の役人のやることか・・・」と唖然としたものですが、バイトとは言え仕事ですから黙って指示に従うしかありませんでした。 当時の私はまだ真面目でした。
ここでのデータ入力作業や入力の元となる紙台帳の管理の仕方は恐ろしく杜撰なものでした。 そもそも元の紙台帳が、国民年金の保険料の納付状況や厚生年金の被保険者の加入期間をきっちり記載・整理・保管したものでは無かったのは明らかでした。 さらには、データベース移行プロジェクトが見切り発車でした。
まえおきはこのくらいにして今日は、皆さんが実際にねんきん定期便や特別便を手にして開けてみたら
私の年金の記録と勤務期間がぜんぜん違う!
と焦った時に、はたまた
この会社には1年以上勤めたのに、年金記録には6ヶ月しかない!
と慌てる前に、「あ、そういうことね」と納得する材料にしていただけたらと思いたち一筆とりました。
さて皆さんは、試用期間 という言葉を耳にしたことはありますね?
会社に新規採用されてから一般的には3~6か月くらいは雇用主も被雇用者もお互いに様子を見ましょう、試みの期間ということでという期間のことで、アメリカにもプロベーションタームなどの名前でありますね。
ですが試用期間、日本の労働基準法でもそのほかの労働に関する法律にもその定義は無いのです。 定義がないというのは、試用期間とはこういう期間のことです、あるいは「試用期間は最長〇カ月まで」「雇用者は試用期間を3ヶ月から最長1年までの期間において定めなければならない」などという文言はどこにも無いという意味です。
にもかかわらず、労働基準法の中にはシレっと「試用期間」とか「試みの使用期間」と使われています。 人事・労務関連のお仕事に就かれていた方であればまず頻繁に目にしたことがあるでしょう。
カンの良い方だと
あ、試用期間中は厚生年金に入れてくれないのね?
とピンときたはず。 きほんメンド~くさがりの私は以前に書いた(かな?)新聞のコラムとか、あるいはこの年金ブログの中でも、「試用期間中は厚生年金の制度に加入させてくれない会社が多い」と書いていると思います。(反省)
厳密に言うと、この説明は妥当ではありません。 雇用主は(※)常用される被雇用者に対しては採用初日から厚生年金保険に加入させなければなりません。(健康保険も同様)
しかし、これには除外される項目があります。つまり適用外。 適用されない被雇用者の定義はいくつかありますが、重要なのがこれ、
2ヶ月以内の契約期間を定めた有期雇用契約である場合、かつ、有期雇用契約の更新を前提としない
あ、2ヶ月ね。2ヶ月超えたら厚生年金に加入できるんだ、とおもいますよね?
ところがこの2ヶ月の契約期間、更新できるんです。
ということは、試用期間を1年と定めた事業主が(※2)契約を2ヶ月毎に更新、また更新と継続すれば、(※3)最長1年まで被雇用者(従業員)を厚生年金に加入させないことができます。 これはつい最近まで(少なくとも20年くらい前まで)は実際にいろんな企業でフツーに行われていたことです。
20年以上前に日本国内の会社にお勤めだった方は(不運にも)この好ましくない慣例にしたがって、雇用されてからはじめの2ヶ月~1年が厚生年金保険に加入されていない期間になっている可能性が大です。
この「20年」と私があげているのは、ここ20年の間、とくに社会保険庁から日本年金機構という公的会社になってからは(このタイミングに沿ったわけではないが)、2ヶ月の契約の無意味かつ頻繁な更新はつつしむ企業が増えてきているからです。 とくに大手自動車メーカーの工場での派遣切りのニュースが取り上げられた頃には、管轄の労働基準監督署より指導・勧告が多くありました。 その頃にはもと被用者から企業への訴訟も増え、原告側が勝訴するケースも多数ありました。 現在はずいぶんと改善されています。
この場合、日本年金機構の相談窓口や相談センターで年金記録の調査・訂正を申請しても、結果は変わりません。 加入していないものはしていないのですから。
※1 週の所定労働時間が20時間以上、勤務期間が1年以上見込まれている、月額賃金が8.8万円以上、学生ではない(夜間・通信制除く)、従業員501人以上の企業で働いている(500人以下でも労使の合意があれば可) 以上の条件を満たす者
※2 契約更新は書面で行われなくても、口頭も可。したがって、被用者側が「口頭でも確認された記憶がない」と主張しても、書面により証拠書類がない限り、立証は難しいと考えられます。
※3 試用期間が最長1年と決められた法律はなく、一般的に試用期間を3ヶ月~1年の範囲で社内規定として決めている事業所が多い、という説明です。