ご存じでしょうか?
令和5年(今年2023年)4月より、老齢年金の「5年前みなし繰下げ」が始まります。
これは、繰下げ受給の上限年齢が75歳に引き上げられたことにともなって設けられた特例の制度です。
「5年前みなし繰下げ」が適用されるのは具体的にどんな人(?)で、受けられる年金の額に影響はあるのか(?) この際検証してみます。
「5年前みなし繰下げ」とは
令和5年4月から、老齢年金の繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。 満70歳になるまでまだ老齢年金(基礎・厚生の両方)を請求していないという方は、最高75歳まで、請求のタイミングを選択できるようになったのです。
ここまでは、皆さんご存じですよね?
これにともなって設けられたのが、「5年前みなし繰下げ」制度です。
満70〜79歳の間で繰下げの申請をせずに年金を請求した場合、5年前の時点で繰下げの申請があったものとみなされ、増額された5年間の年金が一括で支給されます。 さらに、受給開始後はず~っと繰下げにより増額された年金額を受け取れます。
たとえば、74歳の時点で65歳以降の分の年金を受け取りたいと思っても、74歳から5年以上前、つまり、69歳より前の受給分は時効により権利が消滅し、受給できなかったのです。
しかし、「5年前みなし繰下げ」の制度ができたことで、70〜79歳で繰下げの申請をせずに年金を請求すると、5年以上前の期間を「繰下げ待機期間」とみなして計算した金額を、年金額に上乗せして受け取れることになりました。
この特例により、繰下げ待機期間中に何らかの事情で繰下げ受給をやめたとしても、受け取れる年金額が大きく減る心配はなくなり、70歳を過ぎても安心して繰下げ待機ができるようになったのです。
「5年前みなし繰下げ」ができる人ってどんな条件?
「5年前みなし繰下げ」の対象となるのは、以下のいずれかに当てはまる人です。
- 昭和27年4月2日以降生まれ(令和5年3月31日時点で71歳未満)
- 老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給権取得日が平成29年4月1日以降(令和5年3月31日時点で老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給権取得日から6年未満) ただし、以下の場合は「5年前みなし繰下げ」の対象にはなりません。
- 80歳以降に請求する場合
- 請求の5年前以前から障害年金や遺族年金の受給権がある場合
受給額は増えるの?
「5年前みなし繰下げ」の適用時に受け取れる年金額は、以下の計算式で求められます。
一括受取額=(本来の年金額+本来の年金額×(65歳0カ月から請求時点の5年前までの経過月数)×0.7%)×5年間
請求以降の年金額=本来の年金額×(65歳0カ月から請求時点の5年前までの経過月数)×0.7%
「5年前みなし繰下げ」すると、受給額はどのように変わるのでしょうか。
本来の年金額が180万円(年額)の人が、71歳で年金を請求するケースで年金額を計算してみます。
<これまでの制度の場合>
従来の制度では、受け取れるのは66歳以降の本来の年金のみとなります。 65歳からの1年間分は、時効で消滅してしまい受け取れません。 180万円×5年間分=900万円が一括で支給され、その後は年額180万円の年金が受給できます。
ちなみに、20年間受給した場合の年金の合計額は、「900万円+180万円×20年間=4,500万円」となります。
<繰下げの申請をしない場合>
65歳から66歳までの1年間(12カ月)の繰下げ受給を申請したとみなされますので、年金額は0.7%×12カ月=8.4%増額となります。請求時に一括で受け取れる金額は(180万円+180万円×8.4%)×5年間=975万6,000円です。それ以降は、8.4%増額された年額195万1,200円が受け取れます。
20年間受給した場合の年金の合計額は、「975万6,000円+195万1,200円×20年間=4,878万円」となります。
<繰下げの申請をする場合>
65歳から71歳までの6年間(72カ月)の繰下げとなり、0.7%×72カ月=50.4%の増額率を上乗せした年金が毎年支給されます。受け取れる年金額は、180万円+180万円×50.4%=270万7,200円です。
20年間受給した場合の年金の合計額は、「270万7,200円×20年間=5,414万4,000円」となります。
「5年前みなし繰下げ」の新設により、従来制度と比べて受け取れる年金額は大きく増額します。また、71歳以降の請求で、繰下げの申請をする場合としない場合では受給額に大きな差がありますので、その点も注意しましょう。
「5年前みなし繰下げ」の注意点
「5年前みなし繰下げ」の適用を受けると、年金受給額は増額しますが、過去の分の年金を一括で受け取ることで、注意しなければならない点もあります。それは、過去に支払ってきた医療保険・介護保険の保険料や自己負担、税金などの金額について、過去にさかのぼって金額の変更などの影響が生じるかもしれない点です。
どのような影響が生じるか心配な場合は、年金事務所などの専門機関にあらかじめ相談しておきましょう。
また、年金受給を繰下げれば受給総額は増加しますが、年金を受給するまでの生活が成り立つかどうかしっかり把握しておく必要があります。受給総額が増えることばかりにとらわれず、ご自身はどのタイミングで年金受給を開始するのがいいのか、見極めることが大切です。
年金をどのように受給するか考えよう
「5年前みなし繰下げ」は、老齢年金の繰下げ受給の上限年齢が引き上げられたことにより、71歳以降の繰下げ待機に不安がないように新設された制度です。 本制度の活用も選択肢の一つにしながら、年金をどのように受給するのか考えてみましょう。