自分の意思でアメリカ市民権を取得した者が、日本国パスポートがまだ有効(5年用または10年用)だからと言って「私は二重国籍をもってます」というのはアホの発言だと、「日本は2重国籍を認めない国です – その I」で述べました。
あくまでも「日本国は二重国籍を認めてない※」ということです。
では米国の立場はどうなのか?
日本にあるアメリカ大使館・公式サイトの「二重国籍」のページには、下のような記述があります。
はじめに。。。
米国の最高裁判所は、二重国籍を“法律上認められている資格”であり、“二カ国での国民の権利を得、責任を負うことになる”と述べています。一国の市民権を主張することで他方の国の権利を放棄したことにはなりません。(Kawakita.v.U.S., 343 US 717 [1952]参照)
アメリカ市民権を取ったからといって他方の国の権利を放棄したことにはならないって、まあ、なんてフトコロが深い国なの! さすが自由の国・・・ と一瞬でも思いますか?
実は、そうでもないのです
時は、この米国連邦最高裁の判例 Kawakita.v.U.S., 343 US 717 【1952年】 (日本では川北 対 アメリカ合衆国、通称「川北事件」) にさかのぼります。
この裁判の経緯と判決を読みますと、「アメリカという国はフトコロが深い、というわけでもなさそうだ・・」ということが分かります。
この川北(友弥・ともや)さん(死刑囚ですがあえて敬称)はカリフォルニア州で生まれ、生地主義の原則のもと出生と同時にアメリカ合衆国の国籍を得たアメリカ市民でした。 両親が領事館に子・友弥の出生届を出していなかったため、日本の戸籍のどこにも載っていません。 この時点では。
アメリカ合衆国のパスポートで日本に渡り留学していた頃、第2次世界大戦に巻き込まれて母国アメリカに帰れなくなってしまいました。 戦時中、川北さんはやむなく日本国の特別高等警察(特高警察)の一員となり、連合国軍捕虜となっていたアメリカ人に酷い行いをしていたそうです。 同胞を暴行していたのですね。 本人にとっては仕方なく、だったことでしょう。
川北さんは英語を話しますから、当時特高から暴行を受けていた米国人捕虜の記憶には鮮明に残っていました。 これがいけなかった。
戦争が終わって川北さんはやはり、生まれた地に帰りたいと渡米しましたが、戦時中の特高での行いがアメリカ市民への背徳、ひいては合衆国に対する反逆の行為として罪に問われました。
裁判で川北さんは、戦時中に日本国籍を取った際に「自己のアメリカ市民権は消滅している」から米国に対する反逆とは言えないと主張しました。
が、最高裁の判決が上のとおり、
川北さんのアメリカ市民権は消滅していない、放棄もされていない、よって二重国籍が認められる
となったのです。
皮肉にも本人が望んでいない二重国籍をアメリカ合衆国が認めることになり反逆罪となりました。 しかも量刑は死刑でした。(実際には死刑執行はされず、2006年に日本国へ強制送還)
アメリカは川北さんに死刑判決を言い渡すために二重国籍を認めざるを得なかった、というのが真相です。
この1952年から今日においてアメリカ合衆国は二重国籍を認めている訳ですが、リアルな世界では(生地主義で米国籍も持ちながらかつ22歳未満の者をのぞいて)二重国籍の身分は保証されていないと言った方が良いです。
実際にはアメリカが二重国籍を認めていないという事実をつきつけられる場面をいくつか挙げるとして、まず1つ目に「海外に出る・パスポートを使用する時」でしょう。
現在有効な日本国パスポートにはICカードが挿入されていますね? わからない方はご自分のパスポートで確かめて下さい。 他のページよりも分厚くなっているページが中央あたりにあります。 ここにICカードが入っています。
さてアメリカ市民権を取られた方はまず、宣誓した日までにそれまで持っていた永住権カード(グリーンカード)か相当するビザ・サーティフィケートを USCIS で没収されていますね?
それと同時にほぼ強制的にアメリカのパスポートを取得させられたはずです。
日本に一時帰国する際はどちらのパスポートを使用しますか?
ここまで書けばほとんどの方はドキリとするはず
合衆国では国外に出かける場合、アメリカのパスポートでチェックアウトするのが原則になっています。 そのパスポートを使って国外に出た記録が残っていないとなると、いざアメリカに再入国する際にイミグレーションで「アメリカを出国した記録が無い人!?」になってしまいます。
現在アメリカの国際空港のイミグレーション・ゲートがどうなっているか、ご存知でしょうか? 個人情報の自動認証システムでパスポートや顔、指紋等を確認されますね?
では、日本の国際空港に着いて「入国」の際にはどうか? 日本人として日本人用ゲートに向かい日本のパスポートを提示しますか?
テクニカル上、一度目は大丈夫と思われます。 1回だけなら。
これ何度か繰り返しますと、いずれ近いうちにアメリカのどこかの国際空港で職員に呼び止められ Department of Justice に連行されます。
我こそは(!)と勇気のある方はやってみて、私宛てメールにてどうなったのか(?)教えて下さいね。
※1985年1月施行の戸籍法により、1部の者において1時期のみ二重国籍を認められる。