ほんとにアメリカ市民権は要るの? 慎重に考えてみよう

正確な数字を出してみたことはありません。 が、過去16年のだーいたいの感覚として申し上げると、4人に1人のクライアントが日本に永住帰国されています。 夫婦そろって、あるいは70歳を過ぎてから日本国籍の方と再婚することになって帰国という方もありますので、もうちょっと多いかもしれません。

また、今はまだ(かろうじて)アメリカに在住しているけれど、健康保険や介護保険のことを考えると

いずれは日本へ

と考えてる方々もいますので、将来は3人に1人、いや半数は永住帰国することになるのでは?と推測します。

このような方々が帰国を決める前、あるいは後になっても悩みの種になる、後悔することになるのが、

アメリカ市民権を取ってしまっている・・・

件です。

1人で帰国の場合や、ご夫婦のうち片方だけが市民権を取られている場合はまだ救われるのですが、夫婦揃ってアメリカ市民権を取得されている場合、帰国に備えて巨大な壁が待ちうけています。

まず日本国内では二人とも外国人ですから、ほかに身元保証人になってくれる誰かを探さなければなりません。

日本国籍の喪失届は出していないから大丈夫、とお考えの方は役所にて転入手続きをする際に、

国籍喪失届を出していないからすむ問題ではなかった・・・

ことに気づくでしょう。 健康保険や介護保険に加入することもままなりません。

それより何より、アメリカ市民権を持っている限りは日本に限らず世界中のどこに住もうが、アメリカ合衆国の税金を申告する義務があるということです。 1年のうち183日以上国外だとか、もうそういう数字に関係なく※1です。

皆さん身をもってご存知と思います。 アメリカは世界で最も所得税が高い国ですね。

そもそもアメリカが240年ほど前にイギリスから独立したかったのは、とにもかくにも「イギリス本国から課せられる重税から逃れるため」だったのに、

 

独立してみたら、自分たちの税金の方がもっと高くついちゃいました!

という結果が皮肉というか、なんとも残念なこの国です。

さて、アメリカに駐在が決まった25年前から今日まで一度も米市民権を得たいと思ったことがない私には、まったく人はどうしてこうも安易に市民権をとってしまうのか(?)信じられないのですが、どうも過去にはいろいろなガセネタが広まってアワテて米国市民権を取るに至った方が多いようです。

そのガセネタの1つが、グリーンカード(永住権)保持者のままだと「老後にソーシャルセキュリティが受けられなくなる」というもの。 これに踊らされた日本人が多かったのは 90年代後半 ~ 2000年頃でした。

ほかには、グリーンカード(永住権)保持者のままだと「もし配偶者が亡くなった場合にその遺産が受けられなくなり、財産はすべて連邦政府に持って行かれる」という、とんでもない大ウソもあります。 こちらは昔から現在まで変わらず口にする人が少なくありません。

なまじ財産がある人というのは遺産の相続※2のことで心配するものなんですね。 何も持ってなくて良かったぁ 安心していいのか、悲しむべきか・・・

※1年間を通じて常にアメリカ国外(たとえば日本)に居住している場合、又は連続する12か月間においてアメリカ国外(日本)に330日以上滞在している場合には、その国外で得た勤労所得のうち$103,900(2018年)までを限度として総所得から除外(非課税)することが認められます。

※2相続する側の遺産税の税率については毎年(あるいは大統領の交代で)変わることがあります。

日本に帰国した後に日本人として受けられる社会保障を受けるのが難しいからと言って、ではアメリカの市民権を離脱しようとしますと、その離脱の手続きだけで1人 2,350ドル の費用がかかります(2018年度)。

昨年、クライアントのご夫婦で二人とも市民権を持っていた方が永住帰国手続きをされましたが、この市民権離脱の費用にアメリカの弁護士費用と税理士の費用を併せ合計2万ドル以上かかっていました。

一方、こんな費用は「痛くも痒くもない」という若年層で

「アメリカ人やめま~す!」という人は年々増えています!

もちろんこれは何億ドル、何十億ドルも税金をアメリカで支払わなければならなかった超富裕層の話です。

数年前からこういう市民権離脱の数は増えてますが、話題となったのはシリコンバレーでひと儲けしたビリオンネラー、〇〇社のコファウンダーで、この男性は生まれも育ちもアメリカ人でしたがアメリカで年何十億ドルものキャピタルゲイン税を支払うのがイヤで、キャピタルゲイン税のないシンガポールの国籍をとりました。

ま、こういう羨ましいというか、腹立たしい話は置いといて。

市民権を離脱しないまま日本に永住帰国したとして、「米国籍である限り支払わなけれならないアメリカの税金」とは一体どういうからくりになのか? そんな税法を理解した上で、できるかぎりアメリカに収める税金を抑える方法はないのか? IRSのオフィシャルサイトを読んで検証したいと思います。

なお、下の私の説明はIRSのサイトに書かれている現在(2019年)の税法のうち、アメリカ合衆国外に居住する市民(Resident & TAX Payer)の記述を抜粋しましたので、実際の課税プロセスはどうなっているのか(?)詳しくお知りになりたい方は、永住帰国専門の税理士さんに相談して下さい。

米国籍のタックスリターン(確定申告)

もともと米国籍の者や市民権を取得している者については、アメリカ国内に居住していなくても、たとえアメリカでは所得がなくても、日本の所得を含む全世界での所得をアメリカ合衆国の連邦政府に申告する義務があります。

日本に帰国して勤労していても、アメリカ側からみれば上の人たちは合衆国の居住者(Resident & TAX Payer)となり、確定申告のフォームは1040を使用しなければなりません。

この状況の中で課税対象を抑える策としては:

(1) アメリカ国外所得の非課税措置

1年を通してアメリカ国外(たとえば日本)に居住している者(Bona Fide Resident Test)や、連続する12か月間においてアメリカ国外(日本)に330日以上滞在している者(Physical Presence Test)は、アメリカ国外(日本)で得た勤労所得(Foreign Earned Income)のうち $103,900 を限度として非課税にすることが認められています。

この点は少し安心できますね。 高齢者で永住帰国して日本国内での勤労所得に限り1,200万円以上という方はそう多くはないと思います。

日本で1,200万円以上の勤労所得がある人の場合、上のテストのどちらかを満たせばアメリカの税務申告をしても課税対象にはなりません。 この人は Form 2555 を作成して1040 に添付するだけとなります。

(2) 外国税額控除

2つ目に、アメリカ国外(日本)での税金をアメリカの税務申告上控除対象(タックス・クレジット)とする外国税額控除という制度があります。

Form 1116を作成して、申告書に添付します。 アメリカ国外所得の非課税措置と外国税額控除は、いずれか一方を適用することも両者を併用することも可能です。 併用する場合には、$103,900以下の所得については非課税措置を、それを超える所得に対して外国税額控除を適用する、というった具合です。

外国金融資産の報告義務(FATCAとFBAR)

日本に居住しているアメリカ市民権保有者は、外国(つまり日本国内)に保有する預金や株式等の金融資産をアメリカの連邦政府(IRS)に報告する義務があります。

IRS の Form 8938(FATCA)に記入して税申告するとともに、フォーム114 (FinCEN Form 114 -FBAR)にも記入・申告します。 この後者 FBAR は現在はオンラインの電子申告になっています。 こちらの情報は日本の財務省へ行きます。

前者の Form 8938 ですが、これはかなりのクセモノなので 8938 のお題だけで別の機会にトピックをあげたいと思います。

※ これから日本の年金を受け始めようという方で、日本・アメリカの両方の年金を1ペニーも減額されることなく、しかも非課税で受けたい方は、私まぁこまで(連絡先は右サイド)ご相談下さいませ。 これからあなたが受けとる日本の年金が「WEP減額対象の非該当」となる申請を、SSA(米国社会保障省)に対して行います。