将来は日本に永住帰国すること考えている方のを対象に、先月こんな記事を書きました。
ほんとにアメリカ市民権は要るの? 慎重に考えてみよう
安易に市民権を取ってしまうと、日本に永住を決めて帰国した後もアメリカ合衆国連邦政府(⇒歳入省IRS)に対して米国市民である限りアメリカ合衆国での税申告を継続することになりますよ。 将来めんどくさくなって市民権を放棄したいという場合でも、それにはこれだけお金がかかりますよ、
という話をしたわけですが。
さて、「日本に永住帰国は考えていません。自分はこのアメリカの地に骨をうずめるつもりです」、という方だと市民権を取得した方が良いのか? グリーンカードより市民権の方がアメリカに在住する限りは立場的に有利なのでしょうか?
長く住んでいる方が一度は考えてみるのが、自身や配偶者が亡くなった時の
遺産税 Estate TAX
のことですね。
いや、これはいずれ老後は日本に住む・永住帰国を考えている日本人にとっても重要な課題です。 米国籍の者と婚姻関係にある日本人ですと、そのアメリカ人配偶者が亡くなった後に日本へ・・・と考えている方もいるはず。
いくばくかの資産があった配偶者が亡くなった際、その資産を相続する側には遺産税(Estate TAX)が発生します。
相続人がアメリカ市民権を取得している場合と、そうではなくて永住権(form I-551 グリーンカード)のみの方とでは、遺産税への影響はどう違うのか?
IRSのオフィシャルサイトで、”Estate Tax” とか “marital deduction” などキーワード検索しても、市民権と永住権での違いについて言及されたところが見当たりません。
一般のURLをググってみましたら、どうにか信用できるブログ記事が見つかりました。 アメリカの新聞 Wall Street Journal で20年間ファイナンシャル・コラムニストをしていた Jonathan Clements という方が書いた記事で最新(2019年)です。
今回これを見て行きましょう。 1行ごとに翻訳せず、要点だけを日本語で説明します。
Marital Deduction
SPOUSES ARE FREE to give as much money as they wish to each other, both while they’re alive and also upon death. In other words, as long as your spouse is a U.S. citizen, you aren’t constrained by 2019’s $15,000 gift-tax exclusion or $11.4 million federal estate tax exclusion. This is known as the “unlimited marital deduction.”
出典:HumbleDollar 2019 – Jonathan Clements
なるほど、「配偶者がアメリカ市民で有る限り」2019年の15,000ドルの贈与税の控除や1140万ドルの連邦財産税の控除に拘束されないと。 これを “Unlimited Marital Deduction” 「無制限の婚姻控除」と呼ぶそうです。
遺産税の観点から言いますと、相続する側がアメリカ市民権を持っているのであれば、何10ミリオンの遺産を相続してもそれは無制限に控除される(=課税されない)ということですね。
裏をかえせば、この「無制限の婚姻控除」は外国人(永住権保有者)には適用されないことになります。 相続人が外国人の場合には遺産税が課せられると理解しましょう。
でも、ちょっとまって! もともと遺産税には「相続人の国籍に関らず」 $11.4 million federal estate tax exclusion(11.4ミリオンまではIRSの遺産税の控除)が決まりとしてあるわけなので、資産が11.4ミリオン(日本円にして12.5億円)以下であれば、市民権 か 永住権か?というい問題は無くなります。
Moreover, your federal estate tax exclusion is “portable.” Let’s say you die first and leave everything to your spouse, who is a U.S. citizen. Upon your spouse’s death, the amount that can be bequeathed free of federal estate taxes would be twice as much, or $22.8 million, and probably more because of intervening inflation adjustments to your spouse’s estate tax exclusion. Your unused exclusion amount, however, wouldn’t increase with inflation after your death.
出典:HumbleDollar 2019 – Jonathan Clements
以下はご参考に引用しておきますが、例として挙げています。
Portability isn’t automatic, so it’s important that your spouse and executor consult a qualified attorney. To claim the unused exemption, your spouse will typically have to file with the IRS within nine months of your death. Portability is claimed on Form 706, which is used for estate tax returns. Your spouse will likely have to pay an accountant to prepare the return, but it may be worth it, even if your combined assets are currently well below $11.4 million. The reason: Between your death and your spouse’s death, the housing or financial markets might rise sharply or your spouse could receive an inheritance—and suddenly estate taxes are a big issue.
What if your spouse is a U.S. resident, but not a citizen? You can’t take advantage of the unlimited marital deduction, but you could still benefit from the usual $11.4 million federal estate tax exclusion, so estate taxes shouldn’t be an issue for most couples. While you’re alive, you are also limited in how much you can give each year, without worrying about the gift tax, to a spouse who isn’t a U.S. citizen. But again, the limit is high—$155,000 in 2019.
出典:HumbleDollar 2019 – Jonathan Clements
さて、現時点で総資産が11.4 million 超える人は必然的に市民権を取った方が良いのか? という問題なのですが。
私個人の意見ですが、市民権を取ろうか?の決定要因が「遺産税の心配のみ」であるならば、信託(Trust) を作るという手があります。 これだと敢えてアメリカ市民権を取る必要はありません。
この Trust 、正確には “Qualified Domestic Trust(適格国内信託)”と呼ばれるものですが、これを作っておきますと、相続人が外国人(この記事では、永住権をもつ日本人)の配偶者であっても遺産税はかかりません。 というより、遺産税うんぬんの対象ではないことになります。
ホントにザッとですが説明しますと、ご自身(委託者:settlor/trustor)の財産を他人や機関(受託者:trustee)に運用・管理してもらうというしくみです。 その利益を受ける言わば受益者 (beneficiary)を指名します。
”Qualified Domestic Trust” では、受託者(財産管理・運用する者)がアメリカ国民またはアメリカの金融機関であれば良いので、委託者や受益者の国籍は問われません。
この信託(Trust) での相続に関する法についてですが、毎年(毎日?)変更が加えられている上、特にトランプ税制が施行されて間もないので、将来コロコロと変わることが予想されます。 素人がついていくのは非常に困難です。
個々のケースについては、相続に強い弁護士・税理士など専門家のコンサルティングを受けることを強く薦めます。
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